いろは四十八句仙

囲碁川柳いろはカルタ

撰と脇附 棋士 中山典之

<い> 石の上に 三年で知る 石の下 日本棋院 中山典之
			人は百年 圍碁は永遠

<ろ> 論よりも 證據見たさに シチョウ逃げ 静岡縣 淺野利光
			天國奈落 指のまにまに

<は> 鼻先に 初段ぶら下げ 友来る 岐阜縣 川中善雄
			一番だけは 負けてあげましょ

<に> 苦手とは 俺のことかと 憎たらし 福島縣 井幡 正
			憎さも憎し 夢の中まで

<ほ> ほめられて それから打つ手 凝ってくる 埼玉縣 佐久間順三
			定石よりも 良き手なきやと

<へ> 平和です 女房どのが 白を持ち 北海道 金子力男
			わが家は俺が 二、三もく置き
<と> 鈍行が よいと 碁狂の二人旅 愛知縣 野村一樹
			終點ですよ なにまだまだ

<ち> 茶柱も 寝て居る 今日の負けいくさ 千葉縣 飯田 豊
			良き手を見れば すぐに起つ起つ

<り> 龍宮に 碁盤が あれば 更に延び 新潟縣 藤田秀夫
			玉手箱には 棋書が四、五冊

<ぬ> 濡れ衣だ 君がヘボだ なんて 言はないよ 神奈川縣 黒崎 浩
			大事な客と 言ひはすれども

<る> 留守番を 犬に まかせて 碁会所へ 埼玉縣 佐久間順三
			何だ居ぬかと ボヤく碁敵

<を> 尾が出たぞ 一夜仕込みの ハメ手だろ 秋田縣 千葉敬二
			やはりバレたと 舌も出すなり

<わ> 我輩は 黒である 眼は まだできず 岐阜縣 高橋佳三
			名は捜石と 言ふにあらずや

<か> かみさんに 負けて 關白 野に下る 熊本縣 松田昭明
			かかあ殿下と イゴは呼ぶなり

<よ> 寄鍋が 煮つまります と 妻の愚痴 愛媛縣 東澤 孝
			それどこじゃない 煮つまったヨセ

<た> 叩かれた 二子の頭 ちょっと はげ 香川縣 岡本 孝
			あまり叩くと わしは怒るぞ

<れ> レコードを 静かに 流し 詰碁解く 東京都 大津守史
			全部正解 これぞレコード

<そ> 測量し 開拓した地 乗っ盗られ 大分縣 藤崎幸次郎
			還るはいつぞ 北の島々

<つ> 艶消しじゃ このお嬢様 ハメ手 打つ 山口縣 米原綱明
			爺の得意手 眞似てゴメンね

<ね> ねんごろに 慰められる 程の負け 岐阜縣 森本博之
			慰められる ほどに立つ腹

<な> 泣く樣な 聲で三度目 待ってくれ 岐阜縣 柴田 一
			ダメだ 野球も 三振がある

<ら> 來世まで 白は渡さぬ 諦めな 岐阜縣 坂本元弘
			來世は黒と 念書 書いてよ

<む> 向先 この蛤の 白さかな 廣島縣 栗栖文雄
			黒き 小さき 碁敵の石

<う> 烏鷺とはね 圍碁の ことよと ザル二人 愛知縣 松本美江子
			道理でウロウロ するワ この石

<ゐ> 居直った 石のかたちの 憎いこと 東京都 宗像 貢
			大あぐらかき アカンベヱする

<の> のぞいても ついではくれぬ 強いバカ 福岡縣 上村 力
			大愚に似たる 大賢もあり

<お> 老先の 短き吾に 勝たせてチョ 愛知縣 谷川 博
			ヲハリ名古屋と 投げて下され

<く> 悔やむなよ ポカは 天下の 廻りもの 徳島縣 伊丹哲也
			目玉グルグル 阿波の渦潮

<や> 野次馬も 寄らぬ となれば また淋し 栃木縣 中澤 馨
			強すぎるのも 弱すぎるのも

<ま> 又しても ふとんの下に 石が見ゆ 北海道 久保田 實
			下ごころとは これを言ふらむ

<け> 血壓が 少し高くて 碁制限 東京都 金田余心
			せっかく來たのに せめて一番

<ふ> 不可解な 石よと 見やる 眼鏡ごし 愛媛縣 福田哲明
			よほど強いか よほど弱いか

<こ> 子ら巣立ち 妻と究める 烏鷺の道 奈良縣 谷口貞一
			鴛鴦老いて 烏鷺となるらし

<え> 厭世の 因は手直り 二子 三子 神奈川縣 天野旭子
			死にたいだろう いいや生きたい


<て> 手刀は 要らぬ トットと 石あげよ 群馬縣 大磯保夫
			手つき言ひ草 すべて不愉快

<あ> 飽きもせず 大負け小負けで 日が暮れる 埼玉縣 星野清五郎
			カラスの勝手だ オレは歸るぞ

<さ> 咲いた咲いた 老後に 咲いた 圍碁の花 東京都 加賀 肇
			白と黒との 二色なれども

<き> 切られても 血が出てこない 碁の勝負 北海道 中里清之助
			出ては居るなり 見えぬだけなり

<ゆ> 夢にまで 出でし 碁盤を 何とせう 長崎縣 眞﨑成子
			覺めても耳に 残る石音

<め> 冥土にも 碁會所あるやと 墓に問ひ 福岡縣 城田健二
			蟻が出てて アリと答える

<み> みどり兒に 碁石握らせ 大目玉 埼玉縣 杉本喜一郎
			ギュッと握った 白を放さず

<し> 初心者が 大斜 妖刀 大雪崩 埼玉都 望月千波
			オロオロしてる 普及指導者

<ゑ> 遠慮がち 師匠を超えた この一手 新潟縣 織田捷一
			ウンよろしいと 師匠うなづく

<ひ> 悲鳴あげて 實は 喜ぶ 胸のうち 岡山縣 三宅昭三
			怖い饅頭 團體で來た

<も> 文句あるか おまへん 恐れ入りました 大阪府 平野 清
			一手勝ちとは ひでえ親爺だ


<せ> 扇子立て ハッタと 睨む 心地よさ 東京都 本田敏雄
			バッタと敵の 倒れたる時

<す> 好きなのは 私か碁か とは 無理なこと 京都府 山口 裕
			ぬしより長い 碁とのつきあひ


《京》 京の街 斜めに行けば シチョウかな   撰者
             四丁あたりに 碁敵の家